隣の部屋と格差社会。


そんな観察をしていると、『佐渡さん』は綺麗な姿勢を保ちつつじっと私の顔を見ていた。

あ、そうか。私が口を開くのを待っているんだ。


そういえば、さっき質問されてたような。

そうだ。待ち続けて忘れていたけど、目的があってここまで来たんだ。


「住民票が欲しいんです。職場の人に出してくれって頼まれて。」

「分かりました。では、身分証明書の提示をお願いします。」

「身分証明書…?」


えーと、身分を証明するもの、ということよね?

身分を証明…。分からない…。


「免許証やパスポートはお持ちですか?」

「免許は持ってません。パスポートは家、です…。」


固まったままの私を見て、何かを悟ったような佐渡さんが助け船を出してくれるも、パスポートは実家だ。

もう簡単には帰れなくなってしまった実家に置きっ放し。

どうしよう…。

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