おきざりにした初恋の話
ホットココアが冷えていく夜

「寒……」

2時間程の残業を終えて会社を出ると、風が冷たかった。私、沖田菜々(おきた なな)は、コートの前を合わせるようにして身を震わせた。

12月。
今年もあと数日を残すのみとなった季節、街はキラキラと輝いている。
ある人は色めき立ち、またある人は忙しなく動き回り、今年もやり残したことがないかと確認しながら日々を過ごす。

年内の仕事もあと少し。
私も来年に仕事を持ち込まないようにと、毎日のように残業をして仕事を片付けることに専念していた。

「沖田、お疲れ様」

声をかけてきたのは、会社の同僚の酒井だ。
彼も同じく少しの残業を終えて、帰宅するところなのだろう。

「あ、お疲れ」

「今帰り?よかったら飲みに行かね?」

そう言われて少し考え込んだのは、自分でも意外なことだった。
というのも、酒井とは仲が良いからだ。同期ということもあって、飲みに行ったのは1回や2回ではない。
帰る前にどこか温かい店に入って、お酒で体を癒やそうという誘いは、とても魅力的に思えた。

だけど、今日はその誘いに乗れなかった。

「ごめん、ちょっと用事があるの」

「そっか。じゃあまた来週にでも」

「来週はもうお正月休みでしょ?」

「あー、じゃあ来年だ。覚えとけよ」

軽く手を上げて、酒井は帰っていった。少し申し訳ない気持ちでその背中を目で追いかける。
用事なんてないのだ。
どうして酒井の誘いを断ったんだろうと、不思議に思って首を捻った。

ただ、今日は。
今日だけは、行ってはいけないような気がしたのだ。

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