おきざりにした初恋の話
「いらっしゃいませー」
大学生らしきアルバイトの男の子が気の抜けた声をかけてくれた。
ショップを入ってすぐのところに、”今聴きたい恋愛ソング特集!”と書かれたワゴンが置かれていた。その中には、ぎっしりとCDが並べられている。
どうして今恋愛ソングを聴きたいんだろう?そう疑問に思いながらも横を通り過ぎる。
返却カウンターへDVDを持って行き、店員のお兄さんに対応をしてもらう。
DVDといえば、ひとつ思い出がある。
黒田くんと付き合って、初めて彼の家に行ったときに一緒にDVDを見た。
黒田くんの部屋で、並んでベッドにもたれかかりながら見たそれは、小説が話題になって映画化された純愛ラブストーリーだった。
「では延滞料金もございませんので。ご利用ありがとうございました」
「ありがとうございます」
こちらは丁寧な店員だったようで、落ち着いた声で頭を下げられた。
ふと、あの時のDVDが棚に並んでいるのか気になった。
見に行こうと1歩歩いて、だけど思いとどまってやめておいた。
今更、見つけたところで何だというのか。
あんな甘酸っぱいラブストーリー、今の私には不釣り合いだ。
「……帰ろ」
肩と肩をくっつけながらテレビを見るふりして隣を意識して。
確かあの時のあれが、私のファーストキスだ。