おきざりにした初恋の話
コンビニの自動ドアをくぐると、温かい空気に包まれた。
まるで身に纏った氷の膜が溶かされていくように、強張った肩から力が抜けた。
ホットドリンクの売り場まで行き、迷わずにホットココアに手を伸ばす。
じんわりとした温もりが、指先の感覚を引き戻してくれた。
初恋が初恋らしく散ってからの10年間、それなりに恋をしてきたし、客観的に見て自分と相性が良さそうな人とお付き合いもしてきた。その度に、今度こそはと思っていた。
だけど歳を重ねれば重ねるほど、彼氏の前で真っ先にココアを手にするのを躊躇うようになってしまった。
例えば冬場コンビニに2人で入って、彼氏が手に取るのはホットコーヒーだ。
20歳の時の彼氏は微糖、その後の2人はブラックを好んで選んでいた。
その隣でココアを選ぶ自分が、なんだか幼く感じられて、その人に不釣り合いなんじゃないかと考えてしまう。
そんな時いつも、ココアが好きなんだと言った黒田くんの笑顔を思い出すのだ。
「129円です」
ここの店員は、可愛らしい女の子だった。袋に入れるかどうか聞かれて、いらないと答えた。
このココアは帰り道、ポケットの中でカイロ代わりになる。