おきざりにした初恋の話

コンビニの向かい側、道路を挟んだところにはファッションビルが建っている。
1階のショーウィンドウには、大人びたデザインのコートを着たマネキンがポーズを決めていて、通り過ぎる人々の視線を集めていた。

素敵なコートだな、と思ったのはどうしてだろう。
いつもの仕事帰りなら絶対に見向きもしないのに、ふらふらと足が引き寄せられていく。
気がつくと横断歩道を渡って、さっきよりも近い場所からそのコートを眺めていた。

「ねえ、私このコートがいい!」

「ええ?さっきは靴がいいって言ってただろ?」

「気が変わったの!」

会話が聞こえて横を見ると、腕を組んだカップルがショーウィンドウの前で立ち止まっている。
彼女の誕生日のプレゼントでも選んでいるのだろうか。
彼氏のほうは振り回されて困り顔なのに、幸せそうにも見えるから不思議だ。

……私達も、あんな風に幸せそうに歩いていたのに。


ショッピングモールへ買い物デートに行ったのは、高校2年の夏だった。
2人でお揃いのアクセサリーを買おうと言っていたのに、些細なことで喧嘩して、結局買わなかった。

お揃いの指輪の1つでもあれば、また違う今があったのだろうか。

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