岡崎くんの恋愛塾
向かう先は中庭方向だが、そのすぐ隣にテニスコートが二つ整備されている。

話しながら向かうと、どうやら私の着替えにかなり時間がかかっていたようで三限開始のチャイムが鳴り響いた。



やばっ、と思い私たちは急いで中庭のテニスコートへ走った。



中に入ると、なぜだかベンチの所に人集り。
貴重品を入れる箱がある場所だが、人集りが出来ることはほとんどなかった。




「チャイム鳴ったぞー! 早く整列しろ、ほら!」




声を張り上げ、騒ぐ生徒に注意をしていたのは体育教師の小倉先生だった。

日に焼けた肌が黒い坊主の先生。野球部の顧問で、歳は五十後半。 ⋯⋯佐伯先生じゃないじゃん。



なかなかなくならない人集りに先生の声はどんどん大きくなってゆく。
私はその原因が分からないまま、手を伸ばして貴重品ボックスにスマホを入れ、微かに出来始めていた列に並ぶ。






佐伯先生じゃないならなんであんなに嬉しそうに走る人達がいたんだろう。
実は小倉先生が人気⋯⋯じゃないな、先生見てる人誰もいない。




私は年が近い男の人よりはお父さんみたいに年が離れてる人の方が耐性があるから気楽なんだけど。



いつまで経っても人集りがおさまらず、チャイムが鳴ってもう三分。


体育の授業が潰れるのは大歓迎なんだけどちょっと五月蝿いかなー、やっぱ早くしてくんないかな。



やることもなく、地面の砂を靴で引きずり丸を描いていたり。
すると、騒ぐ女子生徒の甲高い声が響いた。


ブーブーいってる。 小倉先生、いよいよキレたのかな⋯⋯。




やっと始まる。 そう思った私はフッと前を向いた。

その瞬間、




「ごめんねー、チャイム鳴ったからみんなも並ぼうか」


「はい、おわり」




⋯⋯二声目。一つ目の声とは違う丁度よく低い声だ。
それはつい最近聞いた声で、私の体を一気に固めた。




女子生徒の間を通り抜け現れたその姿は、私が今一番近寄りたくない人。




「泰正つめたーい」


「先生キレるからまた後ででね」


「えー」




ニコリと女子生徒に微笑む黒髪の生徒。

紛れもない、岡崎泰正だった。
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