岡崎くんの恋愛塾
「涼しー、やっぱここが一番だ」
私は今日一番の笑顔で息を吐いた。
背負ったリュックサックを床に置いて、くいーっと背伸びをする。
この高校は結構歴史があって古いところが目立つ。
でも使えない事はないからそのままにしているのが、この学校だ。
昔に何があったのかは分からないけど、私がいるこの小さな空間は、ある穴。
大きく凹んで出来たこの穴は、他の部屋と部屋に挟まれ、綺麗に空間が空いている場所なのだ。
階段の一番下、誰も近寄らない掃除用具の裏に空いた小さな穴。 木の板で隠せばもうバレない。
高校一年の時に見つけたこの場所は、他の人に会ったことがない所。
私だけが知ってる。 なんかワクワクするんだ。
ここなら誰も来ないから、勉強も捗りそう!
しかも最近、置き去りにされた古い机が穴の外にあったから思わず中に入れてしまった。
⋯⋯いいよね? 誰も使ってなかったし。
こんな居心地がいいところ、他の人に知られたら嫌だなぁ。
そんなことを考えながら使い慣れた問題集と裏紙を机に広げ、使い慣れた赤いシャーペンを握った。
「⋯⋯うん?」
日本史の問題を解こうとした瞬間、ドタドタと足音が響いた。
この時間は帰る生徒や部活動の生徒が校舎内にいる時間。
いつもより少し激しいけど、気にするほどのことでもないか。
階段の真下だから音は結構響くんだよね⋯⋯。
まぁ、いいかと思い直し再び問題集に向き合い、黒鉛を紙に擦り付けようとする。
その時。
「っ⋯⋯! あー、あぶねぇ⋯⋯っ」
思わずピタリと手が止まった。
耳に届いた聞きなれない荒い呼吸。
「⋯⋯え」
顔を上げるとそこには、一人の生徒がキョトンとした顔で座っていた。
ビクリと肩が震え、冷や汗をかく。
目の前にいたのは、
⋯⋯岡崎 泰正だった。