ミチオ






「あなた、もしかしてニャオちゃん?」


「えっ?」


呆然とする私に素っ気なくその女の人は聞いてきた。


クルリと巻かれた髪がふわりと揺れる度に大人の匂いがする綺麗な女の人だった。


目の前のその人から思わぬワードを聞き、咄嗟に固まってしまった。


「違うの?だったらもう個展は終わりました。次回は未定ですが良ければ開催される時、DMお送りしますよ。」


極端な棒読みに怯みそうになるけれど何とか奮い立たせて答える。


「えっと、あの、私…ニャオ、で、す。」


ミチオは私の事をほとんど呼ぶことは無かった。


私も自分から名前を名乗ることもしなかったし。


だから大抵は


ねぇ、だとか


君、とか


だけど時々、ニャオちゃんって呼ぶ事があった。


なんでニャオなのよ、って一度聞いたら


「初めて声をかけた時、迷子の迷子の子猫ちゃん?だったでしょ。」


楽しそうに笑いながらそう答えたのを覚えている。







「へぇ、あなたなのね。あなたが満を保護してたのね?」


「えっ、いや、保護とかって訳じゃないですけど…」


「ふぅん。まぁ、いいわ。そんな事。」


そんな事って…


「中入って。満から預かってるものがあるの。」


「ミチオから?」


促され中へ入るとやはりそこには何もなくて全ての搬出作業は終わっていた。


「ミチオ?なにそれ。ダサ。これから世界のトップに立とうとしている写真家菱田 満にミチオとかって止めてよ。」


冷たい顔して女の人が言う。


そうだよね。


その通りだと思う。


あの菱田 満だもんね。


「すいません。気をつけます。それで菱田さんからの預かりものって。」


「冗談。ちょっと意地悪したくなっちゃったの。あのファインダーの中にしか興味を持たなかった満が初めてファインダーを通さず興味を持った人だもの。」


「はい、これ」そういってポンと渡された茶色したなんてことない封筒。


掌にずしりと重みが伝わる。


えっ、なに?


もしかして…




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