羽根のゆくさき





「お前、今日からこの子の担当だから」


そう言って上司が指を指したのは、ベッドの上で本を読んでいる女の子だった。






白い建物で窓がいっぱいある⋯、病院?


歳は、同じくらいだろうか。
まあ⋯実際は自分の歳がわからないから、比べようにも無理があるけれど。








「いつからがいいですか?」


女の子に視線を下げたまま、僕はたずねる。




「そうだな……なるべく早めがいいだろう。あの手の子は早まってしまうことが多い」

「分かりました。失礼します」





僕は上司の部屋を出て、足下の雲を見る。

フワフワの綿飴のような地面はあまり頼りがないように見えるが、実際は空を飛ぶのに最も適している。



地上にある《コンクリート》というものより質も良い。







「おーい!ゼン!!」


ふいに 僕の名を呼ぶ声を耳にした。

その聞きなれた声は、小さい頃からの友達のものだと気付くのにそう時間はかからなかった。






「あ、リョウか。なんか用?」

「お前、担当決まったらしいじゃねえか!もったいぶりやがってー」


このこの〜、とニヤつきながら肩をつついてくるこいつの名前は、リョウ。

時たまめんどくさいが、人の相談には親身に聞いてくれる 頼もしいやつだ。




「僕もさっき聞いたばっかでさ。ビビってるよ」

「そりゃビビるだろうな」




リョウは「ま、頑張ってこいよ」といい、そのままどっかに飛んでいった。




















────────




ここは、天使界。

全ての天使が暮らす世界。




雲の上にある世界。

移動手段は 自分の背にある羽根。

着ている服は 全て白。



そこまで堅苦しいものでもないけれど、それなりに 規定はある。






僕の名前は、ゼン。

初めて天使の仕事を与えられ、ワクワクしている。いわば《新人》だ。




天使の仕事というのは、【人間】の最期を看取ること。

ひとりひとり、最期の瞬間というのは違うもので。


それに逸れたりしないように、僕たち天使が見守り、誘導する。




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