あの春、君と出逢ったこと
『栞莉、まだ決まらないの?』
『だって……全部可愛いじゃんっ!』
たくさんの浴衣を前に、決め切れないこと3時間。
既に決めている翠は、試着まで終えたらしく、足を組みながら椅子に座り、呆れを含んだ声色でそう言った。
『早くしなきゃ、時間になるわ』
お店の壁に掛けてある時計を見て、焦った声色で翠が私を急かす。
『時間がないのは分かってるんだけど……っ‼︎』
たくさんの浴衣を前に、気分が上がって決められずに翠を待たせてるのは承知だけど!
『そろそろ決めなさい。
煌に怒られるわよ⁇』
時間いっぱいまでは悩んでもいいわよ。
と付け加えた翠に全力で頭を下げて、また浴衣を物色していく。
『翠、花火大会楽しみだね‼︎』
『ええ。
その花火大会に遅れたくないなら、早く選びなさい』
翠の言葉に、我に返り浴衣を物色していた手を動かす。
今日近くで花火大会があって、きていく浴衣をレンタルしようと今探している途中なんだけど。
お店がとっても広くて、見渡す限りあたり一面浴衣だらけ。
だから、この中から選ぶのが大変なんだよね。
翠は結構早めに決めてたけど……。
可愛いのが多すぎて、選びきれない。
とりあえずキープするということで、候補に選んだ浴衣を片っ端から取って行ったんだけど、その浴衣も中々の量で。
今日は、煌君も快斗君も行くから、遅れたら怒られるよね?
主に、煌君に。
どちらかと言えば、快斗君は遅れてきそうだし。
『ね、翠!
これとこれ、どれが良いかな?』
煌君といえば黒ってイメージで、快斗君は赤だよね?
それで、翠が選んだ浴衣が白基調のやつだから、薄いピンクが良いかなと思い、薄ピンク基調の浴衣2着を翠に見せる。
『……私は、右が良いわ。
栞莉っぽい』
左手に持っていたのは、薄ピンク基調で、小さい花が至る所に施されているやつ。
右手に持っていたのは、同じく薄ピンク基調で、右足の方に、大きな桜が施されているやつ。