あの春、君と出逢ったこと
私に近づきながら、人だかりに視線を移した翠が溜息をつく。
……うん。わかるよその気持ち。
あの中に入るのって、結構勇気いるよね?
『……面倒ね、あの2人は』
『でも、事の原因は私たちが遅れたからだと思うし……』
呆れたように言った翠に、苦笑いを浮かべながらそう言う。
でも、ね?
自分たちが悪いんだけど、それでもやっぱりあの中には入りたくない。
『行くわよ、栞莉』
そんなことを考えていた私なんて御構い無しに、手首を掴んだ翠が、私を引っ張りながら女の子達の人だかりに向かっていく。
『ちょちょ‼︎ 翠⁉︎』
後ろで抗議の声をあげる私を無視して、翠が女の子の人だかりをかき分けて、中心地点まで突き進んでいく。
……周りの女の子達の視線が痛いよ。
いきなり入ってきた私達に、女の子達の鋭い視線が突き刺さる。
翠が怯む様子がないのががすごいよ。
『遅い』
『……』
頭上から聞こえてきた煌君の声に顔を上げると、いつもどおり無表情の煌君と目があって一歩後ずさる。
……そういえば、快斗君の声が聞こえない。
不思議に思って快斗君を見た自分の顔から、どんどん血の気が引いていくのが自分でもわかる。
いつも笑顔の快斗君の表情が、煌君よりも無表情で……いや、煌君よりでは無いけど、その無表情の代わりに、不機嫌さが顔に出ている。
快斗君、だよね?
目があっても一言も喋らない快斗君に、思わず隣にいた煌君の後ろに隠れる。
翠の言ってた怖いって、こういうこと?
私、快斗君のことだから、声を荒上げて怒るのかな、なんて思ってた。