あの春、君と出逢ったこと
『げっ、とはなんだ。
すぐに出たって事は、今暇なんだろ?
来い。
今日来い』
『どうしてもー?』
『どうしても』
電話越しの相手に駄々をこねるも、それすらはね退けられ、落胆のため息をつく。
私、あそこ嫌いなんだよね。
いかにも、自分が病人みたいで。
病人なんだと、改めて感じさせられるから。
『来ないとか、なしだからな。
さっさと来いよ』
そういった電話の相手は、私の返事など聞かずに強引に電話を切った。
……昔からずっとこんな調子で、勝手なやつ。だなんて心の中で悪態を吐く。
電話の相手は私の主治医である夏木晃で、苗字からわかる通り、お父さんの弟で私の叔父にあたる人だ。
いくら姪だからって、あそこまで口の悪い医者はどうかと思うけど。
……行かなかったら後が怖い。
この前行かなかった時には、その後行った時に診察プラスで何時間も正座させられた。
あの時のことを思い出して、思わず身震いする。
だめだ。
2度と経験したくない。
少し伸びてきた髪の毛を縛り、念のためマスクをカバンの中に入れる。
……病院なんだから、オシャレとか必要あるわけないしね。
『……行ってきまーす』
あまり乗り気ではないせいか、ものすごく重い足を引きづりながらバスに乗って病院に向かう。
周りから、私らどう見えてるのかな?
病人?
それとも、お見舞いに行く人?
病院前のバス亭でボタンを私は、そんなことを考えながらお金を払ってバスを降りる。
この際、どっちでもいいか。