あの春、君と出逢ったこと
『夏木さん。
夏木栞莉さん』
看護師に案内され、いつもの診察室に入る。
『お、ちゃんと来たな』
いつも通り、見た目は医者に見えるのに、口の悪い目の前の医者を見て、あからさまに溜息をついてみせる。
『溜息をつくと、幸せが逃げるんだぜ?』
……同じような事、前に誰かに言われた気がするけど、誰だったかまでは思い出せなかった。
『で……どうだ?
楽しいか、学校は』
『楽しいよ。特に仲のいい友達が居て、今日の夜は秘密で学校のプールに忍び込む予定』
そう言って悪戯に笑った私を見て、嬉しそうに叔父さんが笑う。
『学校のプールに進入だなんて、青春してるな』
俺にも昔、そんな時代があったんだがな。だなんて言って笑う叔父さんを見て、私も笑う。
『……ゴホッ』
そんな笑いとともに出てきた咳を聞いて、叔父さんの表情が真剣なものに変わった。
『……悪い咳、だな』
『分かるの?』
『まぁ、医者だからな。
今日は久しぶりだからな。
長くなるけど大丈夫か?』
そう言った叔父さんに頷いてみせる。
別に、時間はまだあるから長くなっても構わないしね。
『よし。
じゃ、移動するか』
そう言って立ち上がった叔父さんの後ろをついて行き、順にいろんな検査を受けていった。
『……これで終わり⁇』
最後の検査を受け終え、難しそうな顔でカルテを覗き込む叔父さんにそう声をかける。
私の言葉に我に返ったのか、慌てて頷いた叔父さんを見て、フロアに戻り名前が呼ばれるのを待った。
『……夏木栞莉さん』
暫くして、さっきとは違う看護師に案内され診察室に入る。