あの春、君と出逢ったこと
『何すんだよ、快斗』
一瞬沈んだ煌君が、水面から顔を出して、快斗君の頭を叩く。
『煌が入らないからだろ?
翠チャンも栞莉チャンも、思いっきり飛び込んでみろよ‼︎』
笑顔でそういった快斗君に苦笑いを返すと、下から煌君が私を小声で呼んだのが聞こえて、しゃがみこむ。
『栞莉、翠を引っ張って、飛び込め』
そう言ってニヤリと口角を上げ煌君を見て、同じように笑い返して、頷いてみせる。
確かに、それは面白そう。
いつも引っ張られてる側だし、たまには引っ張っるのも、イタズラするのも良いよね?
『翠』
翠の名前を呼びながら、左手で翠の右手を掴む。
『……栞莉⁇』
そんな私を見て不思議そうに眉をひそめた翠に笑ってみせる。
『私達も、入ろう‼︎』
プールサイドの端に足をかけ、何かを叫んだ翠を無視してプールに飛び込む。
『冷た〜い!』
良い感じに冷えたプールの水が、まとわりついた夏の暑さを奪い取っていく。
気持ち良い何てはしゃいでいた私の頭に、衝撃が走り、思わず頭をかかえる。
水の中じゃなかったらしゃがんみ込んでたよっ‼︎
頭を抱えながら後ろを振り返ると、明らかに作り笑いとわかる笑みを浮かべた翠と目が合い、慌ててそらす。
『栞莉……⁇』
怒ってる。
翠、絶対怒ってる!
顔も見なくても、声を聞いただけで怒ってるとわかるほど、威圧感のある声で私を呼んだ翠に、鳥肌が立つのを感じて身震いする。
『何を考えてるのかしら?』
ゆっくりと、笑みを崩さずに私に近づいてくる翠から、一定の距離を保ち、頭をフル回転して言い訳を考える。
……そうだ。
『煌君に、翠を引っ張れって言われたから』
煌君をチラッと見ながらそう言うと、翠の足がピタリと止まる。