あの春、君と出逢ったこと
『仕方ないだろ?
プールでやる遊びと言ったら、水球しか思い浮かばなかったんだから』
『それが馬鹿って言うんだよ』
呆れたように溜息をついた煌君が、快斗君から水球ボールを奪い取る。
『あっ、返せよ煌‼︎』
いきなりのことで反応できずに、すんなりと取られた快斗君が、我に返って煌君からボールを取り返そうと必死になる。
『……水球なんかより、これを見てる方が楽しいわよ』
私の隣で、呆れたように笑いながらそう言った翠に頷く。
確かに、これが2人っぽいし。
快斗君には悪いけど、初めてやる競技を暗闇でやるのもなかなか強かったから、この方が私も良いかな。
『煌‼︎』
『取り返せば良いだろ』
『本当ムカつく奴だな、お前!』
いつまでたっても取り返せない快斗君が、イライラを含んだ声色で煌君にそう言うと、楽しそうに煌君が笑う。
『栞莉‼︎』
『うわっ!』
遠くから煌君が投げたボールをキャッチすると、今度はこっちに快斗君が向かってくる。
これ、早く回した方が良いやつだよね⁈
快斗君が私のところに来る前に、少し離れていた翠に向かって、ボールを投げる。
『翠ー!』
私の叫び声で振り返った翠が、ボールを受け取って、快斗君に差し出す。
『おい、翠!』
『さっすが翠チャン!!』
そんな翠に、遠くから叫んだ煌君と、音符のつきそうな笑顔とでそう言った快斗君の言葉が重なる。
『サーンキュ!』
そう言いながら、翠から快斗君がボールを受け取ろうとした時だった。
翠が、うっすらと口角をあげ、快斗君の位置からボールが届かないように、スッと上にあげた。
『……翠チャン⁈』
『あら、快斗。
私がそんな簡単に渡すわけないでしょう⁇』
驚いて翠を見上げた快斗君が、口角をあげたままそう言った翠を見て固まる。
……私は、なんとなく予想はついてたけど。
こっちから見ると、翠の笑みがバレバレだったしね?