あの春、君と出逢ったこと
『……煌』
翠が適当に投げたボールが、弧を描いて煌君の元へと戻っていく。
結局は、煌君と快斗君の鬼ごっこになるわけだ。
騒ぎ立てながら水を掻き分けて走り回る2人を見て、翠と顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
『まだまだ、ガキね』
『そう見たい。
でも、楽しそうだから良いんじゃないかな』
疲れ切ったのか、立ち止まって、なぜか硬い握手を交わした2人を見ながらそう言う。
『それもそうね』
翠は、私の言葉に笑いながら頷くと、プールサイドに上がる。
『快斗、私、先に上がってるわ』
『じゃあ、私も!』
翠に続いて、プールサイドに上がった私と翠を見て快斗君が頷く。
『俺らもすぐ出るよ』
快斗君の返事を聞き、カバンを持って更衣室に向かう。
『翠ー、アレ、ちゃんと持ってきた?』
『……アレって、これのことかしら?』
首をかしげながら、翠が鞄の中から取り出したものを見て大きく頷く。
『楽しみだなー……花火』
翠が置いた手持ち花火を見て、そう呟く。
『そうね』
そんな私のつぶやきを聞いてか、着替え終わった翠が、濡れた髪をタオルで拭きながらそう言って笑う。
『翠チャーン! 栞莉チャーン! まだおわらなさそうかー?』
翠と話し込んでいると、ドンドンと勢いよく扉を叩きながら、快斗君が外からそう言ってるのを聞いて、苦笑いを浮かべる。
相変わらず、ぶれないよね。快斗君は。
『もう終わるわ。
いきましょう、栞莉』
『はいはーい』
呆れながらそう言った翠の後ろをついて行き更衣室から出て、快斗君と煌君を探す。
『……先に出たらしいわね』
見当たらない2人にそう言った翠が、溜息をついてフェンスに足をかける。
……そうだった。
ここ、入るのにフェンス登らなきゃいけないんだったよ。
『栞莉』