あの春、君と出逢ったこと
いつの間にか出たらしい翠が、フェンスの外から私の名前を呼ぶ。
『待って、すぐ行く!』
音を立てないようにフェンスに足をかけ、反対側に向かって飛び降りる。
『……地味に足裏が痛い』
私の言葉を無視して、辺りを見渡した翠が溜息をつく。
ひどいよね、翠。
それ、私がため息つかれたみたいで、心苦しいんですけどッ。
『居ないわね』
そんな私の心情も知らず、そう呟いた翠が校舎に向かって足を進める。
『ちょ、待ってよ翠!』
翠に置いて行かれないように、慌てて後を追う。
こんな所、1人で夜出あるけなんて言われたら、ショックで倒れる自信があるよ。
そんなことを考えながら翠の服をつかんで歩き進める。
しばらく歩き、校舎にある中庭の近くを通ると、2人の声らしきものが聞こえてきて、思わず足を止める。
『……ここかな?』
『行ってみましょうか』
翠と顔を合わせてうなずき合い、恐る恐る壁に隠れながら中庭を覗き込む。
『……煌君と、快斗君』
中庭に、先にバケツやらロウソクやらを用意して笑っている2人を見つけて、思わず入れていた肩の力を抜く。
『あ、翠チャン、栞莉チャン、遅かったなー』
手持ち花火をブンブンと振りながらそう言って笑う快斗君に、心なしか、イライラがこみ上げてくる。
誰のせいで遅くなったと思ってるのか。
快斗君たちがいたら、絶対にこんな怖がる必要も、遅くなる必要もなかった‼︎
『お前、お化けとか苦手なのか?』
快斗君と同じく、両手に手持ち花火を持った煌君がそう言いながら口角をあげる。
……どうしよう。ものすごく、煌君にばれたくない。
絶対に馬鹿にされる。