あの春、君と出逢ったこと
『バスの席順は班ごとに固めて俺が勝手に決めるから、どこになっても文句は言うなよ』
そう言った担任に頷いた私達を見て、担任が満足そうに笑った。
……文句を言うなと言われても、今の担任の笑みを、何か企んでるようにしか思えないのって私だけかな?
『……あの担任の笑みが、妙に怖い気がする』
隣から聞こえた声に思わず隣を見ると、煌君が眉間にしわを寄せながら私を見ていた。
……と言うことは、今の言葉は私に向けられたって事だよね?
『……気のせい、だと良いね?
私もそう思うけど』
煌君に苦笑いを返しながら同意すると、溜息をついた煌君は前に向き直った。
それを見て、私も窓の外に視線を移す。
こう言う時、窓際って便利だと思う。
席替えするのが面倒だという担任の言葉に誰も文句は言わず、最初の席のまま固定されてるのだけれど。
1番前の緑と快斗君は、それが嫌らしくて時々文句を言われる。
『お前ら、今日は明日のために早く寝ろよ⁇
担任の俺からのアドバイスだ』
そんな言葉が耳に入って、前を向く。
確かに、私は快斗君から林間学校がある事を知っていたから良かったけど。
明日と言われても、林間学校がある事を知らされたのが1週間前ぐらいだったせいで、皆は慌ててバイトの休みを取った。なんて、話していた。
バイトしてないからわかんないけど、いきなり休みを取らないといけないとかなったら、大変なんだろうなー……。
『琹莉、帰るわよ』
いつのにか、担任の話が終わり放課後になっていたのか、目の前に鞄を肩にかけた翠が呆れた顔で私を見下ろしていた。