あの春、君と出逢ったこと







『嫌われてないとしても?』



ギリギリまで踏み込んだ私の質問に、翠が諦めたような笑みを浮かべた。



『……私はね、琹莉。

今の、幼馴染って関係を壊したく無いの』




そう言った翠は、悔しそうな、諦めたいような顔を浮かべて立ち止まった。



『琹莉は右よね?』


さっきとは打って変わった明るい声に、私も合わせて笑顔で頷く。


……あの話は、後でゆっくり考えるとしよう。


この2人がくっつかなきゃ、いじれないし、楽しく無いもん。




『そうだよー。翠、また明日ね!』


『ええ』



笑顔で両手を振った私を見て、子供ねと笑った翠が、左に曲がる。



そんな翠の後ろ姿に手を振って、軽く1つ、溜息を漏らす。


私だけじゃ無い。



恋愛は、簡単にはいかないらしい。



帰り道で、翠と快斗君をくっつける作戦を考えるも、中々良い案が思いつかないまま家の前に着いてしまう。



『……また、今度考えよう』



頭の中を、翠のことから林間学校に切り替えて、意気揚々と玄関とドアを開ける。



『たっだいまー!!』



返されることの無い言葉を元気よく家の中に向かって叫んで、靴を脱いで家に上がった。




『おかえり。

今日はいつになくご機嫌だけど、何かあったの? 琹莉』




……筈だったのだけれど。





耳を疑う声が聞こえて、思わず肩からカバンが落ちる。


何も入ってなくてよかった、なんて考えながら、目の前にいる人物に向かって突撃していく。



『……ただいま、お母さん!』



『おかえり』


いきなり突撃してきた私を受け止めて笑ったお母さんが、私を抱きしめながら、もう一度そう呟いた。




同じ家に住んでる筈なのに、生活リズムの全く違う私とお母さんがあうのは、結構久しぶりだったりする。



『いつも琹莉に家事任せっきりだったから、お願いして、早く上がらせてもらったのよ』




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