あの春、君と出逢ったこと
明日の準備を完璧にすまし、着替えを持ってお風呂場に向かう。
『栞莉、明日は私が送るわ』
リビングを通った時、テレビを見ていたお母さんがそう言って、思わず目を見開く。
『お母さん、仕事は?』
『明日は遅く出勤するの。
林間学校で早いんでしょう?
送ってあげるわ』
遠慮しないでいいのよ。と笑ったお母さんに頷いて、笑顔を返す。
『じゃあ、お願い‼︎』
お母さんにそう言って、急いでお風呂場に駆け込んでシャワーを浴びる。
……せっかくお母さんが居るのに、明日のために早く寝ないといけないなんて、運が悪い。
ため息をつきながらシャワーを止め、髪の毛をタオルで拭きながら明日の事を考える。
どうにかして、快斗君と翠の肝試しのクジを同じ番号にしたいけど……。
不正はダメだよね?
相手は快斗君だし、一瞬でばれそうだもん。
『翠と快斗君の運が良いことを祈るしか無いか‼︎』
なぜか口に出たその言葉に考えるのをやめて、スウェットを着てお風呂場を出る。
仕方ない。
多分、私が何時間考えても良い案なんて思い浮かばないと思うし。
……こんな時、自分の頭の回転の悪さを恨むよ。
快斗君なら、一瞬で思いつきそうなんだけど。
今回は快斗君に知られたらまずいから、相談なんてできないし。
神様という運に任せるしか無いよね。
『お母さん、お風呂上がったから入って良いよ‼︎』
私の言葉の返事をしてこないお母さんに、首を傾げながらリビングを覗く。
そこには確かにお母さんがテレビを見ている後ろ姿があるんだけど、その後ろ姿が、全くと言って良いほど動かない。
『……もしかして、お母さん寝てる?』
時計を見ると既に11時を回っていて、何となく納得するけど。
お母さん、いつも帰ってくるの夜中で、出て行くのは朝早いよね?
……本当、いつ寝てるのさ。
11時で寝ちゃうってことは、結構疲れがたまってたんだよね。
ソファーで寝息をたてるお母さんに、部屋から持ってきた布団をかける。
『おやすみ、お母さん』
返ってくるはずないけど、とりあえずそう言って自分の部屋に戻る。
……私も寝よう。
そのまま髪を乾かすのを忘れて、ベッドにダイブする。
明日朝にお風呂はいって、髪の毛を直せばいいよね。
もう考えるのも億劫になり、睡魔に逆らうことはせず、そのまま瞼を閉じた。