あの春、君と出逢ったこと
『______きろ。起きろ、栞莉』
誰かに肩を揺らされ、ゆっくりとまぶたを上げると、なぜか目の前に煌君の顔が現れる。
……煌君⁇
目を擦って周りを見渡すと、いつの間にか隣にいたはずの翠の姿はなく、バスを降りようとしていた。
『え!? ちょ、翠⁉︎』
慌てて煌君の手を掴み、バスの運転手にお礼を言ったバスを降りる。
『おはよう、栞莉』
降りてきた私にそう言って笑った翠を目を細めながら見る。
翠が起こしてくれてもいいじゃん。
何でわざわざ煌君に?
『良いじゃない。煌が私より遅かったんだから』
私の考えを察したのか、そう言った翠が煌君を指す。
まぁ、別に起こしてくれたからよかったけどね!
これで置いていかれてたら、さすがの私も怒ってたよ。
『お前らー、これから自由行動だから、色々と迷惑かけないようにしろよ?』
担任から渡された課題を持って、担任の話を黙って聞く。
……この課題さえ終わらせば、あとは何してもいいらしい。
ご飯は野外炊飯ではなく宿舎から出るらしいし、肝試しまでは本当に自由だって。
『珍しいわよね、この学校。
自由時間が長すぎないかしら?』
『その方が良いだろー?』
課題を眺めながらそう言った翠の背中を、快斗君が笑いながら軽く叩いた。
『この課題、結構多くない⁇』
結構分厚い課題をめくりながら溜息をつく。
3センチくらいのかみの束だよ? 中々多いよね。
『お前には難しいか?』
溜息をついた私の隣から、そんな声が聞こえて、思わず顔を上げる。
『ま、バカだしな?』
そう言って私を見下ろしていた煌君が、悪戯な笑みを浮かべる。
『私がバカだって言いたいの?』
『お前以外いないだろ?』
ギッと睨んで言い返した私に、同じように言い返した煌君と、しばらく睨み合う。
お互い一歩も引かず、睨み続けていた私たちの間に、快斗君と翠が入ってくる。
『どいてよ、翠!』
『退け、快斗』
翠と快斗君に向かって叫んだ私と煌君の声が重なる。