あの春、君と出逢ったこと




『美味しかったー‼︎』



そう言って食べ終わった頃には、窓から見える外が暗くなっていた。



『そろそろ8時半だし、肝試しの準備してくるな、俺!』



私たちのトレイも一緒に持った快斗君がそう言って、ルンルンと食堂を出て行ったのを見て、慌てて窓の外を見る。




……肝試しって言った、よね?



窓の外を見ると、確かに真っ暗になっていて、肝試しが出来るくらいの準備が整っている様に感じた。


『神様仏様‼︎
いるなら今すぐ大雨を降らせてください』



両手を合わせながらそう呟いた私を、煌君が不思議そうに見ているのが視界に入る。



『何してんの?』



『あー……別に?』



肝試しとか、お化けが怖いなんてばれたらどうなる?



絶対に鼻で笑われるし、馬鹿にされるに決まっている。


煌君が馬鹿にしているのを想像して、頭を振る。



『そろそろ肝試しだから、外に移動するぞ』


勘付いたらしい煌君が口を開こうとした瞬間、担任がそう言って、煌君の言葉を遮る。



『行きましょうか』


立ち上がった翠に、内心嫌がりながも、煌君にバレないように同じ様に渋々立ち上がる。



いやだよ、肝試しなんてさ。


もしこれで、快斗君か煌君以外の男子と組む事になったら?


絶対最悪だよ……怖いし話せないし、怖いし‼︎



『置いていくわよ、琹莉』


『あ、翠待って!』


先に、食堂を出ていた煌君と翠に駆け寄る。


『肝試しかー……』


思わず出てしまった心の声に、しまったと口を押さえてももう遅い。


『怖いのか?』


恐る恐る煌君を見ると、見事に私の言葉を拾っていた煌君が、口角を上げてニヤリと笑ってそう言った。



『そう言うわけじゃないよ?』



言い訳と気付かれないように、出来るだけ平然を保ってそう返した私を見て、煌君が可笑しそうに笑い返した。








< 153 / 262 >

この作品をシェア

pagetop