あの春、君と出逢ったこと
『……煌君、ありがとう』
振り返った煌君にそう言って笑うと、煌君がいつもとは違う、優しい笑みを浮かべる。
『大丈夫か?』
煌君の笑みに、思わず見惚れて固まった私の頭を煌君が撫でる。
そんな煌君の行動に、顔に熱が集まるのを感じながら、ゆっくり頷いた。
煌君が、いつになく甘い。
頭に置かれた煌君の手に、心臓が煌君に聞こえそうなくらい反応して、高鳴るのを感じる。
『でも、何でここに?』
連れてこられた私でも意味のわからない道で、おまけに辺りは真っ暗なのに。
私の質問に固まった煌君に首をかしげると、煌君が私の頭から手を下ろす。
『……煌君⁇』
『嫌な予感がしたから、後をつけた』
私の言葉を遮るようにそう言った煌君に、続けようとした言葉をやめる。
『見つけた時に、丁度お前が押されたのが見えて、考えるより先に受け止めてた』
そう言って言葉を切って私のを見た煌君から、目が反らせなくなる。
『俺は、お前が……』
そこまで言って、俯いて言葉を止めた煌君に声をかけると、何でもないと煌君が笑った。
『……戻るか』
いつの間にか甘い煌君が消え、いつも通りに戻った煌君に頷いて、手を引かれるまま道を進む。
『煌君、ありがとね』
肝試しの場所に向かいながら、改めてお礼を言うと、私の手を掴んだ煌君の手が、微かに反応するのを感じる。
『……別に』
そうぶっきら棒に答えた煌君にバレないように笑みを浮かべて、煌君の手を握っている力を少し強める。
笑みの理由は、煌君が別にと答えて顔をそらす時は、絶対照れてる時だって知ってるから。
それを茶化すようにして力を込めた手を、煌君も言い返すように強く握ってきた。