あの春、君と出逢ったこと


そう言ってニヤリと笑ってみせた煌君に、言葉が詰まる。


確かに、怖くないとは言ったけど‼︎

でも、懐中電灯取るのは酷いよ!




『返して!』


『却下』


私の懐中電灯をチラつかせながらそう言った快斗君から、懐中電灯を奪い取ろうと手を伸ばす。



『チビ』



『チビじゃない‼︎ 平均‼︎』


時々バカにしてくる煌君に言い返しながら、懐中電灯を取ろうと試みる。



……届かないなら、膝カックンしてみる?


私が届かないとわかっている高さで懐中電灯を見せつけてくる煌君に向かって、ニヤリと笑ってやる。



そんな私を、怪訝そうに煌君が見つめた隙を狙って煌君の後ろに回って、膝を曲げた。



『……なっ』


『作戦勝ち‼︎』



目論見通り、膝カックンにかかった煌君の手から懐中電灯を奪い取り、ニヤッと笑って懐中電灯を見せてける。



『……ムカつく』


『煌君に言われたくないよ』




ボソッと呟いた煌君の言葉に即答で突っ込んで、煌君の袖を引っ張る。



『……何?』



いきなり引っ張った私をみて首を傾げた煌君に溜息をついて、入り口で番号を叫んでいた担任を指す。



担任が丁度、私達の番号を叫んだのが聞こえて煌君の袖を引っ張ったんだけれど。



……煌君、聞こえなかったのかな⁇



私から顔をそらしている煌君には聞かず、煌君の袖を引っ張ったまま、担任の所に向かった。



『お、お前らで最後だからな!』


私達を見てそう言った担任に渋々頷き、懐中電灯をつける。


私の隣で、同じように懐中電灯をつけた煌君の袖を離し、素早く後ろに回った。



『お前な……』



そんな私に溜息をつきながらも、大人しく先頭になってくれた煌君にお礼を言って、担任の合図を待つ。



『19番終わったみたいだから、行っていいぞ』



そんな担任の聞きたくなかった言葉と同時に、目の前にいた煌君が歩き始めて、慌てて後ろにしがみつく。



< 160 / 262 >

この作品をシェア

pagetop