あの春、君と出逢ったこと




『お化けは苦手なのか』


『無理。恐怖系は本当にダメ!』




煌君の質問に早口で返しながら、辺りを懐中電灯で照らす。



途中でガサッと草が揺れた音にも、鳥の鳴き声にも反応して悲鳴をあげる私を見て、心なしか、煌君が楽しんでいるように見えた。



『煌君、私の反応見て面白がってない⁈』



そんな私の質問に笑った煌君が、当たり前だろと言っていきなり立ち止まった。




『どうしたの?』



何事かと煌君の後ろから顔をのぞかせると、意味のわからない看板が立っていて、矢印が二本のびていた。




『これ、何?』



『どちらかに進む、らしい』


恐る恐る看板に近づいて文字を見ると、確かに矢印の方向を自分たちで選ぶ式になっていた。





……どっちかを選べってことだよね?


片方は安全だけど長い道。
もう片方は危険な道だけど短い道。

なんて、看板に書いてあるから、いわゆる、究極の選択ってやつだと思う。



自分たちで最善の道を選べ、的なね?




『俺はどっちでもいい。お前が決めろ』



そう私に言った煌君を見て、慌てて看板に視線を移す。



私からしたら、本当に究極の選択。


このまま、夜の山道を長い間歩くのか。
それとも、怖い思いをしてでも、短い道で行くかなんて。



選べるわけがない。




『……無理』


選べないことを煌君に伝えると、少し考えた煌君が、何を思ったのか、いきなり私の手を掴んで自分の方に引き寄せる。



『煌君⁉︎』



いきなりの事に、驚いて声を上げた私を見下ろした煌君が、右方向の矢印をさした。



右方向は、確か危険だけど短い道……だった。


『俺が捕まえといてやる』



『え……⁇』



今だに状況の整理ができていない私を無視して、煌君が私の手を掴んだまま先を進んでいく。



『煌君、早い‼︎ 絶対何か出てくる!!! 』




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