あの春、君と出逢ったこと
『……お前、本当ムカつく』
歩きながら呟いた煌君の声が、今度こそわたしまで届く。
『今、それ言うの⁉︎』
そんな煌君に驚いていつものノリで返した私に、煌君がまた、立ち止まる。
『お前、鈍感すぎ』
私の方を振り返ってそう言った煌君に、頭を横に振って否定を示す。
『私は別に、鈍感じゃない』
言葉でもそう言い切ると、煌君が呆れた笑みを浮かべて、入学した時よりも少し伸びた私の髪の毛を掬う。
『本当、ムカつく』
掬った髪の毛を、自分の指でときながらそう言った煌君に、思わず体が動かなくなる。
『……今は、気づかなくていい』
煌君の行動の意味を探ろうと、口を引いた私の言葉を遮るようにそう言った煌君に、渋々頷く。
『それと、あと1つ』
そう続けた煌君を見ると、いつもの調子に戻ったのか、ニヤリと笑った煌君が前方を指す。
『あかり、見えてるけど。
まだ俺の袖掴んどくのか?』
そう言った煌君に、慌てて袖を掴んでいた手を離して、前を見る。
前を見ると、確かに明かりが見えて、思わず走り出そうとするのを抑える。
『早く行こう⁇』
『……ああ』
懐中電灯を消して、煌君の手を引っ張って明かりの方へ向かう。
『内緒だからねー?』
私が言った言葉のさすことが分からず、首輪を傾げた煌君に、悪戯な笑みを浮かべる。
『お化け、苦手な事。
快斗君と翠には秘密』
私の言葉に、分かったと笑った煌君を見て、丁度着いたタイミングで手を離す。
9月。
私の中で、煌君の中で。
何かが変わったように感じた。