あの春、君と出逢ったこと
何かの正体は、煌君の固く握られた拳だったらしく、快斗君は、直撃した頭を抱えてうずくまる。
別に、困ってはないんだけど、ね?
こんな夜に、ワザワザ仮装してお菓子もらいに来る事が不思議だったから、首をかしげただけだし。
……まぁ、快斗君は既に殴られた後だから、弁解する必要もないとは思うけどね?
『煌君はしてないんだね、仮装』
『快斗の連れだからな』
快斗君と違って、私服を身につけていた煌君に聞くと、別にお菓子をもらいに来たわけじゃないと言って煌君が笑う。
それを見て、私もそっかと笑い返した。
……誰か、いないよね?
確かここに、煌君も居て、快斗君もいるわけであって。
絶対、翠もいるってことだよね⁇
出てこない翠を不思議に思った瞬間、快斗君の後ろから、微かにとんがった何かが見えて、思わず笑みがこぼれる。
成る程。
翠も仮装させられたんだね、快斗君に。
『みーどりっ‼︎』
わざと明るい声で快斗君の後ろに回り、必死に隠れていた翠を呼ぶ。
『……栞莉っ』
案の定、快斗君の後ろには仮装した翠がいて、珍しく恥ずかしがって快斗君の後ろから出ようとしない。