あの春、君と出逢ったこと
『いい匂いがするわね』
オーブンの中身であるラスクの匂いに誘われたのか、翠がキッチンに入ってくる。
『ご馳走様、栞莉。
お皿はここでいいのかしら?』
空になったお皿を掲げながらシンクを指す翠に頷いて、ラスクを袋に詰めていく。
本当は冷ました方がいいんだけど、そんな時間はないから、暑くても仕方ないよね。
『ご馳走様でした!!
マジでうまかったよ、栞莉チャン!』
そう言って快斗君が空の皿を持ってキッチンに入ってきたのと、私のラスクのラッピングが終わる。
『栞、それは何⁇』
私の手元に気づいた翠がそう聞いてきたのを見て、ちょうど終わったラスクを翠に差し出す。
『これ、ハロウィンのお菓子。
お菓子って言ってもラスクだから甘さは保証できないけど……』
『そんなの関係ねえよ。
美味いし』
早速ラッピングを開けた快斗君が、リスクを食べながらそう言った。
美味しいなら良かった。
快斗君の言葉に笑顔で返事をする。
『栞莉』
突然煌君に呼ばれたかと思うと、いきなり頭に何かをつけられたことを知る。
頭を触って、それがウサギの耳であることを確認して、煌君に首を傾げてみせる。
『うさぎって、ハロウィンなの?』
私の疑問に鼻で笑った煌君が、私のウサギの耳を直しながら話し始める。
『別に、ハロウィンじゃなくても、コスプレしとけばいいんだよ』