あの春、君と出逢ったこと
白い天井、独特の薬の匂いに顔をしかめながらも、大人しくフロアのソファーに座って待つ。
この前煌君にばれそうだった事もあり、自分が悪くなっていくのを感じて、自らここに足を運んだ。
……絶対、ありえないと思ってたのに。
こんな所に自分から来るなんて。
『夏川さん。夏川栞莉さん』
名前を呼ばれ立ち上がり、毎回違う看護師に案内されていつもの診察室に入る。
診察室のドアを開けると、私が自分から来たことに少し驚いた様子のおじさんが、カルテに視線を移して、険しい表情を浮かべた。
看護師が退出し、私が椅子に座ると、私の方を見たおじさんが、重々しく口を開く。
『……自分から来たということは、そういう事なんだよな⁇』
そういう事。
つまり、自分でもわかるほど危険な状態だという事。
病院嫌いで、頑なに来る事を嫌っていた私が自分から病院に足を運んだ事で、おじさんはそう感じ取ったらしい。
そんなおじさんの言葉に否定せず、少し頷いてみせる。
『入院はしないのか?』
私を見て真剣にそう言ったおじさんに、今度は首を横に振って否定を表す。
『入院はしない。
今、本当に楽しいんだよ‼︎』
明るくそう言って笑うと、納得しづらそうに叔父さんが頷いた。
『その代わり、薬は1つ増えるからな』
新しい薬を私に見せてきた叔父さんに頷いて、薬を受け取る。
『また来るね』
『できるだけ、多くな』
そう言った叔父さんに、曖昧に笑え返して、薬を片手に診察室を出る。
……できるだけ多く、か。
叔父さんのカルテを見る表情は、明らかに前回よりも曇っていたし。
何よりも、最近こける事や滑舌が悪くなっている事が証拠で。
私の病状は、良くはないんだと思う。