あの春、君と出逢ったこと
大きい溜息を1つついて、診察の順番を待つためロビーに向かって歩く。
この病院大きいから、移動する距離も結構長いんだよね。
診察室からロビーまで、ものすごく遠いし。
心の中で病院に悪態をつきながら歩いていると、前から来た人とぶつかりそうになって、慌てて横に逸れる。
『あ……すいません』
私がそれると、目の前の人も同じ方向にそれたらしく、顔を上げないまま謝ってロビーに向かおうとした時だった。
『……栞莉⁇』
歩こうとした私の手をその人が掴み、なぜ知っているのか、私の名前を呟いた事に驚いて顔を上げる。
『……煌、君⁈』
私の手を掴んで、驚いたように目を見開いて私を見ていた煌君と目が会い、所構わず声を上げてしまった。
『そうだけど』
いつも通り、ほとんど変わらない煌君の言葉に首を傾げて、こんな所にいる理由を聞く。
『俺は婆ちゃんのお見舞い。
……お前は?』
何気なく、聞いてきたんだと思うけど。
今の状況でのその質問に、思わず、何も返さずに固まってしまう。
煌君は、私が何も言わない事を不思議に思ったのか、口を開かずに私を見つめる。
……この沈黙が嫌だ。
煌君にバレてしまいそうな気持ちになりながら、無理やり口角を上げて作り笑いを演じる。
『病気なのか⁇』
恐る恐ると言うように私に聞いてきた煌君に、そのままの作り笑いで否定を示して誤魔化す。
しかし、それで誤魔化せるはずもなく。
見るからに不機嫌になった煌君が、私に隠す様子もなく盛大に舌打ちを打つ。