あの春、君と出逢ったこと
『言えない事があるんだろ?』
病院だからか、無理やり落ち着かせた雰囲気の声に、イラつきが含まれているのを感じて、背中に嫌な汗が流れる。
『それは、翠も知らない』
だんだん早口になっていく煌君に、私は顔を俯ける。
……何も言えない。
煌君が言っている事は確かだし、否定する事がないけど。
私の事情を知った煌君たちは、今まで通り私に接してくれるの?
そんな保証、いくら煌君たちが優しいからって、ある筈が無い。
むしろ、ゼロに近いはずなんだから。
『栞莉。
お前……何かの、病気……なのか⁇』
怒っていたはずの煌君の声色が、悲しそうな声に変わり、思わず顔を上げる。
顔を上げると、目に映ったのは、何かを我慢するかのような感情を瞳に宿した煌君と目があう。
その、煌君の射抜くような体が動かなくなるのを感じながら、右手で拳を握りしめて笑みをつくる。
『そんな訳ないでしょー⁇
お母さんの薬‼︎ 代わりに取って来いって言われちゃって』
笑顔を作って言ったそんな苦し紛れの言い訳に、微妙な表情で煌君が頷いたのを見て、安堵の溜息をつく。
……このままじゃ、絶対にボロが出る。
勘付かれている今の状態でボロなんて出たら、絶対にばれてしまう。
そう考えて、この場を早く立ち去ろう、薬を持たない方の手をふる。
『じゃあ、また。学校でね!』
そんな私の言葉に、煌君も手を振り返して、反対側の方向へ向かった時だった。
勢いよく扉を開けたのか、大きい音のたったの診察室に、煌君と同時に視線を向ける。
そんな診察室から、血相な面持ちで、叔父さんが出てきた事に驚いて、目を見開いて固まってしまう。