あの春、君と出逢ったこと
来るな、なんて。
そんな私の心の言葉が聞こえるはずもなく、真っ直ぐ私の方に向かってきた叔父さんが、私の手を掴んで袋を握らせる。
『それ、予備だから。
お前、ちゃんと薬飲めよ』
そう言って、呆然とする私の返事を聞かぬまま、忙しそうにロビーの方へ走って行った。
今さっき、私の薬じゃないと誤魔化したのに。
私の苦労を水の泡にして、台風のように去っていったおじさんを恨みながら、恐る恐る煌君を盗み見る。
……気まずい。
今の状況を一言で言えば、まさにその言葉で。
何を考えているのか、無表情で言葉を発しない煌君と、何も言葉を発するの事のできない私の間に、重い沈黙が流れる。
『……あの』
『栞莉、お前さ』
言い訳をしようとした私の言葉を遮って、煌君が口を開いて、強い口調でそういう。
さっきまで、怒っていても声を抑えていたのに。
それすら出来なくなったのか、煌君が私に、次から次へと捲りたてていく。
『その薬はお前ので、お前はさっき、俺に嘘ついたって事だろ⁇』
私の持っていた薬を奪い取ってそう言った煌君に、肯定も否定をせず、ただ唇を噛み締める。
『……わかった。
お前は、そうやって黙ってるつもりだろ?
何も答えないで、重要な事は何1つ言わない‼︎』
煌君の言葉に、自分の中の何かが切れる音がしたかと思うと、勝手に口が開いていく。
『煌君に、何がわかるっていうの……⁇
煌君は、私の気持ちなんてこれっぽっちも分かってないでしょ‼︎
『お前の気持ちなんて分かるはず無いだろ⁉︎
隠し事をして、さらにそれを隠すために嘘までをついた奴の事なんて、分かりたいと思う訳ないだろ』
私の反論にそう返した煌君に、私の中の何かが、急激に冷めていくのを感じた。
『……もういい』
もう、話す気も失せた。
言いたいのに、言えなくて。
それを隠して嘘をついたことまでこうやって一方的に攻められて。
確かに、私が悪いとは思うけど。
それでも、いくら頑張ったって、煌君に、私の気持ちがわかるはず無い。