あの春、君と出逢ったこと




『何がもう良いんだよ』


話は終わってねえ。と、立ち去ろうとした私の腕を掴んだ煌君の腕を、思いっきり払う。



『煌君に話したって、何かが変わる訳じゃないでしょ』




感情と一緒に、奥からこみ上げてきた涙を必死に堪えながら煌君にそう言って、次こそ、腕を掴まれないように走ってその場を立ち去る。




周りから、いきなり大声で喧嘩をし始めた煌君と私に向けられる視線を感じながら、それを無視して、ロビーを通り越して、病院の外に出る。




……検査は、もう良いや。

いま中に入っても、煌君と鉢合わせする可能性が高い。



まるで、溜息をついた私をあざ笑っているかのように、青く澄んだ快晴の空を両手で仰ぐ。



馬鹿みたいに青い空を見ていると、私の悩みが小さく感じて、思わず笑みが溢れる。



今じゃなくたって、隠し続けていく中で、いつかこんな事は起こるはずだった。

それが今日で、相手が煌君だっただけ。




そう考えると、いくらか気分が軽くなる。



いくら喧嘩しても、煌君にも、誰にも言うつもりはないけど。



それで良い……ハズなのに。


どこか納得していない部分を押し込めて、気付かないふりをして。

私は、病院を後にしたのだった。





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