あの春、君と出逢ったこと
side_kou
『煌君に話したって、何かが変わる訳じゃないでしょ』
何かを堪えるようにそう言って、俺の目の前から消えていった栞莉の後ろ姿を見ながら、その場に立ち尽くす。
大声で喧嘩した俺達を、周りが俺を見ているのを視界の端に捉えながら、ムシャクシャした気持ちを紛らわすように、思いっきり髪の毛をかいた。
あいつの中の俺たちは、所詮その程度で。
自分の秘密を言えるほど仲が良くなった訳じゃないことに気づかされる。
その事に、傷ついている自分に驚きながらも、視線を逃れるために、あいつが走って行った場所の反対側へと、足を進めた。
イライラしたまま、婆ちゃんの病室の扉を、音をたてて開けると、中から怒鳴り声が聞こえてきて。
それを無視して、未だに治らないムシャクシャを紛らわすかのように、髪の毛を再度ぐしゃっと握りながら中に入った。
『ちょっと、煌‼︎
今お婆ちゃん検査だったから良かったけど、いたら驚くじゃない』
案の定、怒鳴り声の主は翠で、ベットの布団を畳みながら俺を睨みつける。
『知ってた』
さっき、あいつと喧嘩する前に、婆ちゃんが検査行ってるの見たから、扉にあたった訳だし。
『随分イラついてるわね』
答えた俺を、呆れたように見ながら翠がそう言った。
……どうせお前だって、あの場にいたら、イラついていた癖に。
どうしてもさっきの場面が思い浮かんできて、イライラをぶつけるように、髪をグシャッと握って、椅子にもたれかかる。
『……イラつきの原因は、もしかして栞莉かしら?』
そんな俺を見て、そういった緑に、思わず驚いて顔を上げる。