あの春、君と出逢ったこと
『図星なのね?』
そう言って笑った翠を睨みつけて、座り直してから目を閉じる。
『何があったの?』
珍しく、快斗達と話している時のような口調の翠の言葉を聞きながら、さっきの場面を思い出す。
『……何があった、ね』
色々、言いたいことを言った。
隠そうとするあいつにイラついて、声をあらあげた。なんて、な。
翠が聞いて、起こらないはずがないだろ。
『……言わないつもり?』
『ああ』
翠の言葉に肯定して、口を堅く閉じて、教える気がないことをアピールする。
『大方、さっき栞莉に会ったんでしょう?
栞莉が隠し事をしている事に気づいて、イラついて、喧嘩した……とか』
余りに正確すぎる翠の過程に反応しそうになりなり、出そうになった言葉を、直前で飲み込む。
そんな俺の反応を見て図星と受け取ったらしい翠が、呆れたようなため息をついて、俺の頭を叩いた。
『何すんだよ』
目を開けて翠を睨むと、馬鹿にするかのように鼻で笑った翠が、再度俺の頭を叩く。
『あんたは、本当ガキよね?
栞莉の気持ちなんて、少しもわかってないわ』
翠の言ったその言葉が、去り際に放った栞莉の言葉と被って聞こえる。
『あいつの気持ちなんて、わかりたくもない』
俺の発した言葉に、翠のこめかみがぴくりと動いたのを見る。
……何、怒ってるわけ。
『何、怒ってんだよ』
『いい? 煌。
誰にだって、言いたくないことくらいあるわよ』
俺の言葉に予想に反して冷静に返した翠に、さっきの事を思い返して奥歯を強く噛み締める。
『お前は気にならないってのかよ⁇』
湧き上がるイラつきを抑えて、睨みつけながら翠に向かってそう言う。
あいつは、俺だけじゃない。
お前にだって、快斗にだって隠し事をしてるやつであって。
それを隠すために、嘘までついた。
俺らの関係は、そこまでってことだろ?