あの春、君と出逢ったこと
『気になるに決まってるでしょう⁇
……本当、わかってないわね。
栞莉にとってそれは、私達に言いたくても言えない事なのよ』
溜息をつきながらそう言った翠に、おれの言葉がとまる。
言いたくても言えないこと?
例えば……なんで、何も思いつかない。
それに、そんなポジティブで、綺麗事の考え方が当たるわけがない。
『俺には、そうは思えない』
投げやりにそう言った俺に、翠が近づいてきたかと思った瞬間、左頬に、痛みが走る。
『煌、あんたは何も分かったないわ。
確かに気になるけど、私達は、友達なのよ』
だから、言ってくれるまで待つと言って、翠が俺から離れる。
……友達だから、言ってくれるまで待つ、ね。
本当に、栞莉は俺たちに教えてくれるのか?
友達……の、俺らに。
友達と言う言葉にどこか引っかかりながらも、無理やり納得して、椅子から立ち上がる。
『気はすんだかしら?』
『……ああ』
立ち上がった俺を見てそう言った翠に肯定して頷く。
『仲直り、しなさいよ』
なんでもお見通しなんだろう。
謝ろうと思っていた俺の心を読んだかのようなタイミングに驚きながらも、翠に笑って返す。
仲直り、なんて。
快斗と意外やった事なんてないけどな。
それも、いつもあっちが勝手に怒って勝手に謝ってくる様なもんだし。
『不器用なあんたなりに、考えなさいよ。煌』
『煩え』
可笑しそうに笑う翠を軽く睨んでそう言うと、どこからか音楽が聞こえてきて、開こうとした口を閉じる。
『……私のだわ』
そう言って、鞄の中からケータイを取り出し、誰かと話し始めた翠が、不意に、俺の方を見て口角を上げた。
それを見て、眉間にシワをよせる。
翠のあの笑いは、俺の経験上、良いものではない事を知っていたからだ。