あの春、君と出逢ったこと
『煌。快斗よ?』
『……快斗⁇』
てっきり、翠の電話の相手は栞莉だと思い込んでいた俺は、拍子抜けしながら翠からケータイをうけとる。
『快斗⁇』
『あ、煌か?
俺、今さっき栞莉チャンに会ってさ。
煌の名前だしたら、いきなり走って行ったんだけど。
お前、何かしたのか? てか、何があった?』
快斗の言葉に、思わず固まってしまう。
快斗にまで、バレている。
それに、栞莉が俺の名前を出した途端に逃げたとか。
謝っても栞莉が許してはくれない気がしてきて、快斗の言葉など聞かずに、考えを巡らせて黙り込んでしまう。
『何かしらねえけどさ!
ちゃんと謝れよ⁇』
俺の気持ちとは対照的なくらい、明るく言った快斗に返事をし、通話を切ってから翠に携帯を投げる。
俺から投げられた携帯をキャッチした翠を見てから、婆ちゃんの病室を出た。
……明日から、普通に接しねえと。
ゆっくり歩きながら病院の外に出てから、近くのベンチに座って、空を見上げる。
どこまで澄み渡る青い青い空。
『……広いな』
そんな当たり前の事をつぶやいて、口元に笑みを浮かべる。
明日謝ないと。と、決意を固めて立ち上がる。
『煌。行くわよ』
遅れて病院から出てきた翠の言葉に頷いて、翠に近寄る。
『……本当、頑張ってもらわないと困るのよね』
そんな俺を見て、翠が何かをつぶやいた気がして聞き返すと、翠は誤魔化すように何でもないと言って、話題を変えてくる。
『お前、快斗とはどうなの』
話題を変えようとしてくる翠に、ニヤッと口角を上げてそういう。
兄弟でも別に、こんな話しても良いだろ?
現に、あのチキンな快斗と、同じくチキンな翠は、昔から両思いのくせに全く付き合う気配がない。
……見てて、イライラする。
『私は、別にそんなんじゃないわよ』