あの春、君と出逢ったこと


そう言って、何とか逃れようとする翠だが、あの栞莉でさえ気づいているんだから。


その点においては、翠は少しわかりやすい。


『バレてるけど』


言おうとしない翠にそう言ってやると、言葉を詰まらせた翠が苦笑いを浮かべる。



『……なにも無いわよ』



そう言った翠に、ワザとらしくため息をついて見せる。




俺に謝れという割に、こいつはいつまでたっても告白するつもりが無いんだよな。



『そう言う煌は、どうなのよ』



何の前ぶれもなく、そう話をふってきた翠に、思わず顔をそらす。



俺……か。



何気に、快斗の事をチキンとか言ってる俺も、その部類に入ってるんだろうな。




『速くしないと、取られるわよ⁇

栞莉は可愛いんだから』



そう言ってニヤリと笑った翠に、軽く溜息をつく。


確かに、今でも男集団の中でそういう話題になった事は結構ある。


栞莉と同時に翠も人気があるらしく、こんな話題の時は、必ず俺と快斗が睨まれる。



『俺は……』




実を言うと、告白なんて考えたこともなかった。


……いや、あるな。



勢いで、林間学校の時に言おうした時があった気がする。




今でも、何も気づかないあいつに、少しだけそんな素振りを見せてるつもりだけど。





『栞莉は鈍感よね』




俺の心の中の言葉を代弁するかのようにそう言った翠に、今度は俺が苦笑いを浮かべた。




『結構それらしい事してるのに、全く気付く気配が無いんだものね』



俺を見てご愁傷様と両手を合わせてきた翠に、思わず溜息をつきそうになるのをこらえる。



……今日は、溜息をつきすぎな気がするしな。








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