あの春、君と出逢ったこと



『ま、とりあえず。

あんたはちゃんと仲直りしなさいよ』



『……ああ』




ガキでもあるまいし、仲直りなんて簡単だろ。


そのままバスに乗って家に着いてからは、その事については何も考えないようにして、1日を過ごした。




ppp...ppp...


『……煩え』



そう呟いて、手を伸ばして目覚まし時計を止める。


……朝、か。


ベッドから降りて、思いっきり体を伸ばす。



『……そういや、今日だったな』



昨日の事を思い返して、溜息を1つつきながら部屋から出て階段を降りる。



『おはよう』


『……はよ』



既に出る準備を終えて、朝ごはんを食べていた翠の言葉に俺も返し、同じように席について朝ごはんを食べる。




俺の両親は、朝が早いらしく、俺が起きる時にはいつも家にはいない。


……その代わり、朝ごはんが用意されてるけど。



翠に聞いた所によると、翠が起きる時間にはまだいるらしい。



『ごちそーさん』


両手を合わせてそう言い、空になった食器をシンクに置いてから部屋に戻る。



昨日かけてあった制服を着て、カバンを持って一階に降りると、既に翠の姿はなかった。





……出るの早すぎだろ。



そんな翠に呆れて、俺も家を出る。



しばらく歩いて駅の前につくと、前から誰かが歩いてくるのが見える。


同じ制服でスカートだから、同じ学校の女か。



適当にそう考えて、学校に向かって歩こうとした時だった。



その女の姿がハッキリと見えて、思わず立ち止まる。



女は女で俺に気づいたらしく、同じように立ち止まって、俺の方を見る。





『お……はよ。煌君』






そう言った女……栞莉に、頭では何か返さないといけないとわかっているのに、口が動かない。







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