あの春、君と出逢ったこと
そのまま、何も返すことができず栞莉を置いて、学校に向かって歩く。
……本当、ガキかよ。俺は。
昨日、簡単だって考えていた俺がバカみたいに思えてくる。
いざ、本人を目の前にすると、中々言葉が出なくなって。
結局さっきみたいな事になってしまった。
そう考えているうちに学校に着き、自分の席について、隣に視線を移す。
俺の隣はまだ空席で、その席を見てから溜息をついた。
話しかけてきてくれたのに無視するとか……最低だな。
心の中で自分を罵倒して、自嘲的な笑みを浮かべる。
『……煌君、おはよう』
ボーッと考え込んでいた時、さっきと同じ声が聞こえて、思わず顔をあげそうになるのを抑える。
今更、どんな顔して返せば良い⁇
そんなことを考えてしまった俺は、結局また同じことを繰り返してしまった。
あれから、栞莉が話しかけてきてくれても、無視をし続け、避け続けて、いつの間にか、放課後になっていて。
気がつくと、周りの奴らが帰るために準備をしていた。
『煌、ちょっと良いかしら⁇』
今日1日の行いを思い返して、溜息をつく。
自分でさえ呆れてしまう俺に、翠が怒らないはずが無い。
俺の机に両手をついて、上から見下ろすようにして笑った翠を見て、そう思った。
翠に頷いて、人の少なそうな空き教室の中に入った瞬間、翠の怒鳴り声が耳を突き刺す。
『あんたね、何考えてるのよっ‼︎
栞莉が話しかけてるのに無視するし、挙げ句の果てには避け続けて。
……煌、あんた本当女心が分からない男ね』
最後の方になると、少し落ち着いてきたのか、呆れたように言った翠に、目を反らす。
『昨日、仲直りするって言ったわよね?』
翠の言葉に素直に肯定を示す。
『なら、謝って来なさい』
それが出来たら苦労しない。
本人を目の前にすると、どうしても逃げたくなるんだから。