あの春、君と出逢ったこと
『……ここまでヘタレだとは思わなかったわ』
本当に呆れたのか、はきすてる様にそう言った翠に、今日のことを思い返す。
朝から始まり、今に至るまで。
昼の時も、栞莉とは一言も話さなかった。
『まだ居るわよ?? 教室に』
そう言った翠の言葉に、思わず顔を上げる。
『……早く行きなさいよ、ヘタレ』
そう言って鼻で笑った翠に、俺のこめかみがピクリと上がるのを感じる。
『睨んで無いで、急いで行きなさい』
慣れているのか、適当にあしらってそう言った翠に頷いて見せ、急いで空き教室を出る。
誰もいない廊下を走って勢いよく教室に入ると、音に驚いたのか、肩を上げて反応した栞莉が、俺の方を見て固まる。
『……琹莉』
走ってきたせいか、緊張のせいなのか。
無理やり言葉を絞り出して、琹莉の名前をつぶやく。
『煌君……⁇
快斗君、図書室で待ってるって言ってたよ』
急いで来たのが、快斗を待たせてるからだと思ったらしい琹莉に、何も返さずに近づいていく。
『琹莉』
琹莉の目を見ながらそう言った俺と、琹莉の視線が重なる。
『……ごめん』
『……へ?』
いきなり、頭を下げて謝った俺の耳に、上から翠の抜けた声が聞こえてくる。
『煌、君⁉︎ 顔、上げて!』
慌てたように声を上げてそう言った琹莉に顔を上げると、何が起こったのかわからないような表情を浮かべた琹莉が視界に入る。
『昨日。
無神経なこと言ったから』
だから、謝りたかった続けると、一瞬固まった琹莉が、苦笑いを浮かべる。
『あれは別に、私が悪いと思うから、煌君は謝らなくても__』
良い。と続けようとした琹莉の額に、デコピンをお見舞いする。
『ちょ、煌君⁉︎』
痛そうに額を押さえてそう言った琹莉に口角を上げると、琹莉が、笑った俺を睨みつけてくる。