あの春、君と出逢ったこと
『煌君、やっぱ意地悪』
『お前が馬鹿なんだろ』
『それ、関係無い!』
いつの間にか、いつも通り会話できている事に驚いて、思わず声を上げて笑ってしまう。
いきなり笑い始めた俺を、不思議そうに見る琹莉を見て、余計に笑いが治らなくなる。
『煌君⁈ もしかして壊れたの?』
笑の治らない俺を見てそう言った琹莉に、首を横に振りながら、無理やり笑いを抑え込む。
『おかしいだろ?
謝りきれなくて悩んでたのに、普通に会話してんだから』
意味もないことで悩んでた事をしって、バカバカしくなってしまう。
『それはっ……確かにそうだけど』
反論しようとした琹莉も、言葉が見つからなかったのか納得して、表情に笑みを浮かべる。
『確かに、おかしいかも』
そう言って笑った琹莉に、心臓の音が早くなったのを感じて、思わず目を反らす。
『煌君⁇』
『……何でもねえ』
不思議そうに顔を覗き込んできた琹莉にそう返して、バレ無いようにため息をついた。
お前はスッキリしたと思うけど、俺には、また違う悩みができたんだよ……なんて。
心の中で悪態をつきながら笑みを浮かべる。
『何笑ってるの?』
『気のせいだろ』
ごまかした俺に、ギャーギャー文句をつけてくる琹莉の額に、もう一度デコピンをかます。
11月。
俺は、何も知らずに。
ただただ、惹かれていく。