あの春、君と出逢ったこと



『……帰るだろ?』



黙っていた私にそう言った煌君に、慌てて頷いてみせる。




『送ってくれなくても、大丈夫だよ?』





煌君、家反対だし…と付け加えてそう言った私を見て、眉間にしわを寄せる煌君。





……ん?



今の答え、間違ってたかな?



なぜか不機嫌になっていく煌君に、頭の中にクエスチョンマークが躍る。



『お前、気づかないにもほどがある』


いつもより少し低めのトーンでそう言った煌君に、引きつった笑みを浮かべる。




気づかないって、何に?

煌君が大変だろうって事くらい、気づいてるつもりではあるんだけど。




『さっき、1人でいたらどうなった?』



さっき、と言った煌君の言葉に、チャラい男達が脳内に浮かぶ。




……アレか。




『アレはたまたまだよ!

周りがカップルだらけだったから、声かけたんだと思うよ?』




外には沢山人がいるし、もう私に声をかけるような人たちは居ないと思うし。




『……馬鹿か』



『私がバカなら、煌君はあほだよ!』



悪態をついてきた煌君にすかさず言い返すと、煌君が大げさに呆れてみせた。




『良いから、送る』



そう言って譲らない煌君に、私が折れて、しぶしぶ送ってもらうことにした。



……どうせなら、さっきのピアス渡そうかな?


今日じゃなきゃ、渡せないだろうし!






< 197 / 262 >

この作品をシェア

pagetop