あの春、君と出逢ったこと
『……帰るだろ?』
黙っていた私にそう言った煌君に、慌てて頷いてみせる。
『送ってくれなくても、大丈夫だよ?』
煌君、家反対だし…と付け加えてそう言った私を見て、眉間にしわを寄せる煌君。
……ん?
今の答え、間違ってたかな?
なぜか不機嫌になっていく煌君に、頭の中にクエスチョンマークが躍る。
『お前、気づかないにもほどがある』
いつもより少し低めのトーンでそう言った煌君に、引きつった笑みを浮かべる。
気づかないって、何に?
煌君が大変だろうって事くらい、気づいてるつもりではあるんだけど。
『さっき、1人でいたらどうなった?』
さっき、と言った煌君の言葉に、チャラい男達が脳内に浮かぶ。
……アレか。
『アレはたまたまだよ!
周りがカップルだらけだったから、声かけたんだと思うよ?』
外には沢山人がいるし、もう私に声をかけるような人たちは居ないと思うし。
『……馬鹿か』
『私がバカなら、煌君はあほだよ!』
悪態をついてきた煌君にすかさず言い返すと、煌君が大げさに呆れてみせた。
『良いから、送る』
そう言って譲らない煌君に、私が折れて、しぶしぶ送ってもらうことにした。
……どうせなら、さっきのピアス渡そうかな?
今日じゃなきゃ、渡せないだろうし!