あの春、君と出逢ったこと
そうと言っても、洗顔して、歯磨きしながら髪をとかして、薬を飲んで……。
これだけなんだけれども。
『ごめ、ん! 待たせた』
急いで車に乗り込み、シートベルトをしめる。
『良いのよ、じゃあ、とばすわよ⁇』
ニッと笑ったお母さんが、車のスピードをどんどん上げていく。
『お母さん⁇⁉︎ 速い、よ!』
『遅刻しそうになった栞莉が悪いのよ』
私の言葉になんて聞き耳を持たず、そのまま車をとばして行くお母さん。
……スピード違反にならなきゃ良いけど。
『さ、着いたわよ』
いつもより半分の時間が過ぎた頃くらいには、目の前に学校がそびえ立っていた。
『……速っ』
そのことに、呆れながらお母さんを見る。
『栞莉』
『ん?』
『行ってらっしゃい』
私の目を見て、微笑みながらそう言ってくれたお母さんに、私も笑顔を返す。
『行ってきます』
もしかするも、これが最後の行ってきますなのかな、なんて。
そんな事を考えながら、校舎の中へと進んでいく。
『栞莉ちゃん大丈夫なの?!』
『大丈夫だよー、おはよ!』
暫く学校に顔を出していなかった私が来た事に驚いたのか、慌ててそう聞いてくるクラスメート達に笑って挨拶する。
学校には、私が病気って事は伏せてもらってたから、みんなはなんで私が休んでいたのか知らないはずなのに。
それのに、普通に心配して接してくれるクラスメートの子に、今更ながらに、このクラスの良さを知った。