あの春、君と出逢ったこと
慌てて栞莉の顔を覗き込むと、泣きそうな、それでも、笑っている表情を浮かべている栞莉と目があう。
『……ご、め……ん…。
外……行けない、み、たい』
グッタリと俺にもたれかかりながらそう言って笑みを浮かべる栞莉を見て、自分の奥底から溢れそうになる涙を、唇を噛んで堪える。
『そんなの、良いに決まってる。
とりあえず、医者呼ぶから』
背中の支えになっている手はそのままに、膝の裏に腕を通して、そのまま栞莉を持ち上げ、ベットの上に下ろす。
『こ、うく……ん、あり、がとう』
そんな俺に、力なく笑う栞莉を見て、ヤッパリ今日なのだと。
痛いほど、現実を感じる。
『気にするな。
……医者、呼んだから。
安心して寝ろ』
栞莉の頭に手を置き、ポンポン…と頭の上で動かす。
『……ん』
そのリズムもあってか、栞莉は静かに瞼を下ろしていった。
1人、静かな病室で、朝日に照らされて眠る栞莉を眺め、声を出さないように流れてくる涙を、必死に押しとどめる。
何度も何度も手の甲で拭い、ようやく涙を止めたと同時に、病室の扉が、音を立てないように開かれる。
『やっぱり、倒れたか……』
白衣をまとい、病室に入ってきた医者に、さっき起きたことを説明する。
『……栞莉は、本当に、今日……⁇』
『そうだろうな』
期待していたのとは違った医者の言葉に、目を伏せる。