あの春、君と出逢ったこと
『……そう、ですか』
『次、眠られた時が最後。
そう、思っていてほしい』
俺が医者の言葉に頷くと、一礼してその医者は去っていく。
……次眠る時が最後なら、このまま栞莉が起きなければ良い何て考えが頭をよぎる。
『……ダメだな、こんなんじゃ』
誰にも拾われることなく、そう呟きながら、さっきまで座っていた、栞莉のベットの近くにある椅子に座る。
『……俺、笑うよ。栞莉』
声をかけても、当たり前のように返事が返ってくることはなく。
俺の声だけが響く。
もう、何も考えたくなくて、栞莉の右手を握りしめたまま、ベットに頭を置き、目を閉じる。
……俺は、笑って。
笑って、お前を見送ってやるから。
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