あの春、君と出逢ったこと
『……栞莉、彼らと、話すでしょう?』
そう言って私から離れるお母さんに、ゆっくりと頷いてみせる。
そんな私を見て、お母さんが皆に一声かけて、病室から出て行く。
……もう、すぐだって分かる。
分かってるから。
こんなの、要らない。
そう思い、震える自分の腕に力を入れて、口元についていた呼吸器を外す。
……これの方が話しやすいもんね。
最後だけは、ちゃんと話がしたい。
『ちょ、何外してるのよ、栞莉‼︎』
私が外した呼吸器を持ち、再度つけてこようとする翠に、頭を横に振る。
『あ、りが、とね』
いろんな意味を含めての、ありがとう。
皆には、言い切れないほどの感謝がある。
転校初日に話しかけてくれた翠と、私を邪魔者扱いせずに友達になってくれた快斗君と煌君。
『何、言ってんのよ。
そんな、死ぬ間際みたいなこと……』
震えながらそういう翠に、力なく笑みを返すことしかできない。
『栞莉チャンが居なくなったら、双子に心折られた俺を慰めてくれる人、居なくなるじゃん』
笑いながらも、その言葉を発する快斗君の声色が震えているのに気付き、どうしようもない気持ちになっていく。
『……ご、めん』
それでも、今、私が言えることは。
ありがとう
そして
ごめん
これだけだ。
『栞莉』
私の左手をすくい、私を見下ろしながら笑う煌君に、視線だけ移す。
『……な、に?』
『俺、栞莉事、好きだ』
その言葉はとてもイキナリで。
それも、一瞬のことで。
何が何なのかわからなくなる。
『……え?』
『俺は、夏川栞莉が好きです』
聞き返した私に、もう一度。
今度はハッキリと煌君がそう言う。
『……こ、くん?』
『嘘じゃない。
もう一度、お前に伝えたかった』
真剣な目で私を見下ろす煌君に、何も答えることができず、目線を下にそらす。
『……こっち、見てくれ。栞莉』