あの春、君と出逢ったこと
『知っての通り、今日、このクラスに転校生が来る!』
宣言するように桐山が言ったその言葉に、教室中が騒つく。
『仲良くしろよ? お前ら。
じゃあ、夏川。入ってこい』
担任の言葉の少しあと、遠慮気味に、教室の扉が開かれ、1人の女が入って来た。
黒のボブの髪に白い肌。
すっと伸びている手足が見せているほど、身長は大きくない。
どちらかといえば、さっぱりしている感じの女。
少し緊張した顔のその女は、“美人” と言うより
も “可愛い” の方が似合う女だった。
担任の隣に立ち、俺らを見渡した女は、後ろを振り返り黒板に何かを書き始める。
カツッ カツッ……と。
そんな音がいやでも耳に残るほど、さっきの騒つきが嘘のように静まり返る教室。
黒板には、白いチョークで。
綺麗な、字で。
『夏川、栞莉です。よろしくお願いします』
女の子らしい、高い声で女が言ったように。
夏川栞莉
と書いてあった。
『じゃあ、お前ら、ちゃんと夏川と仲良くしろよー⁇』
そんな事を言って、名簿を片手に担任が教室の扉に手をかける。
席を教えず、去っていく担任に驚いたのか、戸惑いながら担任を見る夏川。
『夏川、お前の席は、朝倉の隣だから』
肩越しに振り返った担任は、それだけ言って、本当に教室から出て行った。
『……朝倉さん……⁇』
まだ戸惑いを隠せない。
そんな声色と表情で、朝倉と呼ぶ夏川。