あの春、君と出逢ったこと
『いくぞ?』
山先生の声に下を見ると、私達と同じように、山先生がボールを高く上に投げていた。
試合が始まった合図。
そのボールに触ったのは、相手よりも高く飛んだ快斗君……。
『わ、取った!』
1人ワーワー騒ぐ私の頭を、翠が叩く。
中々の痛さに、抗議しようと翠を見ると、何事もなかったかのように下を見ていた。
……仕方ないか。少し、静かにしよう。
私なりに反省し、翠と同じように下を見る。
女子の時とは違い、男子は3本先取らしい。
コート上は、正に煌君と快斗君の独壇場。
ボールをキープして、慣れたようにコントロールした煌君は、相手2人をスルスルと抜かし、そのままシュートを決める。
煌君がシュートを決めた瞬間、女子の黄色い叫びが体育館に響き渡る。
……私は、我慢したよ?
隣にいる翠から、視線が痛いほど刺さってきたから!
快斗君は快斗君で、相手の持つボールを奪ったかと思うと、スリーポイントを華麗に決める。
……この時も黄色い悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもないよね?
最後のシュートですら、相手に手を出させずに決めた2人に、勝ちを知らせるホイッスルが鳴り響いた。
『……これは、確かに反対したくなるのもわかるよ』
試合を見終わり、ギャラリーから下に降りながら翠にそう言う。
『惚れた?』
なぜか顔をニヤつかせながら私を見てそういう翠に、思いっきり首を横に振る。
『それはないよ!』
『そう……残念ね』
笑いながらそう言った翠に、からかわれていた事を知る。
『ちょ、翠! 嵌めた?』
『嵌められた方が悪いのよ』
私の反論をさらっとかわし、澄ました顔で、煌君達のところまで歩いていく翠に、置いて行かれないように私もついていく。
『あ、翠チャンに栞莉チャンじゃん!
見た? 俺と煌のコンビネーション!!!!』
近づいてきた私達に気づいた快斗君が、煌君の肩に腕を回して、ピースを向けながら元気よく言う。
『見た! 2人とも、バスケ上手いね!』
そんな快斗君に、右手の親指を立てて、笑いながら返事をする。