あの春、君と出逢ったこと
翠に適当に返事をして、私も翠の隣に並ぶ。
『お、やる気満々だな、夏川、朝倉』
そんな私たちを見て何故か嬉しそうにそう言った山先生に、心の中で首を横に振る。
山先生、ヤル気があるんじゃなくて、早く終わらせたいだけなんです。
そう言うと何と言われるかわからないから、心の中で思っとくだけだけどね。
『じゃあ、始めるぞ?』
それより、ずっとコートを移動しなきゃいけない山先生は大変だよね。
そんなことを考えていた私に、山先生がそう言った声なんて聞こえてこなかった。
『ボーッとするんじゃないわよ、栞莉!』
そんな私に大声で喝を入れた翠を見て、慌てて我に返り、既に相手の手に渡ったボールを見る。
……やりますか!
口元に笑みを浮かべ、相手の持っていたボールを奪いにかかる。
さっさと終わらさなきゃ、翠が怒るし。
もう少し楽しみたかったけど、良いよね。
勝手に頭の中で自己解決をし、奪ったボールをそのままリング下にいた翠に向かって投げる。
私の投げたボールは、弧を描いて翠の手元まで飛んでいく。
……我ながら、綺麗に投げきれたと思う。
私が投げたボールを受け取った翠が打ったシュートは、綺麗にリングに収まっていく。
翠と目が合い、翠に口角を上げてみせ、右手の親指をぐっと立てる。
それに笑いかえした翠も、私に向かって右手の親指を立てた。
なんか、良いよね、こう言うの。
友達と青春してる感じが良い!
『栞莉、あと一本よ』
『うん、そうだね……っ⁉︎』
翠の言葉に返そうとした私は、込み上げてくる咳に、思わず言葉を詰まらせる。
『栞莉?』
『大丈夫大丈夫』
軽く咳き込みながらそう言って翠に向かって笑うと、納得していない顔をしながらも、渋々頷いた翠を見て、安心する。
……まさか、翠の前で咳き込むなんて。
気をつけないと。